トラニラストは臨床上、肥厚性瘢痕、ケロイドの治療薬として用いられている。この作用としては創傷治癒過程の終末期である組織合成期にケラチノサイトの出現が遅延し、コラーゲンが組織に蓄積された場合に有用となる。トラニラストの作用としては、(1)肥満細胞に作用し、ケミカルメディエーターの遊離を抑制する、(2)in vitroでは線維芽細胞、平滑筋細胞、微小血管の内皮細胞の増殖を阻害する、(3)in vivoではこれらの細胞の機能を阻害するなどが挙げられる。今まで、このトラニラストがケラチノサイトにどの様に作用しているかの研究は見られていなかった。そこでヒト・ケラチノサイトに対するトラニラストの作用をin vitroで検討し、作用メカニズムを推定した。その結果、トラニラストはin vitroの実験で、ヒト・ケラチノサイト増殖に対する阻害作用を容量依存的に示した。しかし、最終濃度400μm/mlの緩衝液では細胞増殖に対する有意な作用は見られなかった。ケラチノサイトの細胞形態に対して高濃度のトラニラスト培地は細胞体の伸長を引き起こしたが、トラニラストを除去すると細胞形態は回復し始め、2日後に正常形態となった。また、ケラチノサイトの増殖阻害作用は細胞周期G0/G1の停滞によって引き起こされることが示された。以上の結果より、トラニラストによるヒト・ケラチノサイトの増殖阻害作用は、肥厚性瘢痕組織においても線維芽細胞の派落輪増殖能を低下させることによって、瘢痕治療に応用可能であり、有効性が期待できると考えられた。今後は、トラニラスト存在下での表皮ケラチノサイトと皮膚線維芽細胞の相互作用について検討することが課題となる。
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