研究課題
急性創傷や慢性創傷における創傷治癒過程においては、主役の線維芽細胞をはじめとして、多くの細胞がその機序に関与し、各種の細胞増殖因子や生理活性物質を分泌している。それらは最終的には上皮細胞の形成をもって修復とみなされる。細胞増殖因子としてはTGFβ、FGF、PDGF、IL-1,6など、生理活性物質としてインテグリン、ラミニンなどがあり、病態毎に複雑に関与している。われわれは、急性創傷におけるインテグリンα5β1の発現を蛍光顕微鏡下でとらえ、さらにラミニンに関しても創傷部の基底層底部に存在していることが分かった。また急性創傷では表皮細胞はインテグリンαvβ6の発現をアップレギュレートすることも分かった。しかし、褥瘡や下腿潰瘍などに代表される慢性創傷では、インテグリンα5β1の存在やαvβ6発現、KI-67発現に関する詳細な報告例は少ない。慢性創傷においては、創面全体への血流障害があるため、その中における各種細胞増殖因子の相対的な量の測定は困難であった。われわれはαvβ6やKi-67に注目し、急性創傷の代表である熱傷創と慢性創傷の代表創である褥瘡から創の辺縁を摘出し、免疫組織化学的にそれらの局在の検索を行った。また再上皮化の指標であるラミニンとの相関を検討した。その結果、インテグリンαvβ6陽性発現部およびKi-67陰性発現部とラミニン陰性発現部との相関関係が見られた。褥瘡においては血流不足のためか再上皮化が進んでなく、従ってインテグリンαvβ6は見られなかった。このことより、表皮細胞が浸潤してゆく先端部にαvβ6が発現してゆくことは、表皮細胞の再上皮化にαvβ6が大きく関与していることが示唆された。またK1-67発現陰性部は表皮細胞の再上皮化の速度を測る上で有用であると考えられた。創傷被覆材に適切なインテグリンを組み込み、経時的に分解してゆくシステムを構築すると、慢性創傷においても、創傷治癒を促進できる可能性があり、今後の興味ある研究であると考えられる。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) 図書 (2件)
褥瘡会誌 11
ページ: 1-7
川崎医療福祉学会誌 18
ページ: 515-519
皮膚の科学 8
ページ: 21-24
現代産婦人科 58
ページ: 55-58
日本口蓋裂学会雑誌 34
ページ: 273-282