現在、日本を含め、世界中の集中治療室において致死的疾患として、最も患者数が多い疾患は循環器疾患と重症敗血症である。これらの予後改善が、当然急務とされているが、循環器的疾患のここ10年における予後の改善と比較すると、敗血症の予後は抗生剤開発後あまり改善していないのが現況である。このため、我々はヒトの敗血症に最も近い機序であると考えられているマウス盲腸結紮モデルを使用して、本来糖尿病治療薬として開発されたが、強い抗炎症作用を併せ持つ、核内転写因子Peroxisome Proliferator-Activated Receptor(PPAR)-γの選択的リガンドであるピオグリタゾンの効果を検討を行った。ピオグリタゾンは、単核球系細胞の血管内皮細胞への接着を阻害すること、肺や肝臓などの主要臓器の炎症を抑制することなどを介して生命予後を改善することが明らかとなった。詳細な検討を組織学的、血中のサイトカイン濃度などについて行ったが、ピオグリタゾン投与群においては、単核球系の細胞の肺や肝臓への浸潤が抑制されると共に、好中球の活性も抑制されており、また血中のサイトカイン、ケモカイン濃度も共に有意に抑制されていた。一方、血中脂質の一種であるアポリポプロテインEの遺伝子多型がヒトの敗血症の生命予後を左右することが知られているが、そのような重症の敗血症と同じ発症メカニズムを表すと考えられる、アポリポプロテインEノックアウトマウスにおいてもピオグリタゾンは上記の働きによって予後改善作用を示すことを明らかになった。 これらは、現在の集中治療の領域において、ここ数十年予後が改善していない重症敗血症の新たな治療の方向性を示すものとして、有意義な成果であると考えられる。
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