研究概要 |
抗菌薬の多剤投与による消化管常在菌叢の根絶動物モデルでの、感染症時の自然免疫応答の評価を前年より継続した。C57/B16 miceを、通常の滅菌水を与える対照群と抗菌薬を注入した滅菌水を投与する抗菌薬投与群にわけた。抗菌薬投与群では腸内常在細菌はほぼ死滅し、腸内pHが有意に上昇し、総有機酸濃度は有意に低下しており、腸内環境の悪化が認められた。次に、腹腔内マクロファージを採取し、F4/80-FITC,TLR-PEにて二重標識し、Flow cytometryにて細胞表面のToll-like receptor(TLR)の発現量を確認した。腹腔内マクロファージ上のTLR4とTLR2は抗菌薬投与群で有意に低下していた。リポポリサッカライド(LPS)12.5mg/kgを腹腔内投与し、2時間後の血清中のTNFαを測定したところ、抗菌薬投与群で有意に低下していた。また腹腔内投与4時間後に6.25mg/kgのLPSを再度腹腔内投与し、二重LPS刺激を行うと、抗菌薬投与群にて有意に死亡率が低下し、抗菌薬投与群におけるLPS低応答性が示された。最後に腹腔内マクロファージを採取し、F4/80-FITCにて標識した細胞をソーティングし、蛋白レベル・mRNAレベルでの量を測定したが、TLR2,TLR4とも明らかな差は認めず、TLR2とTLR4の発現調整は細胞表面レベルで行われている可能性が示唆された。これらの結果から多剤抗菌薬併用療法は腸内細菌環境を悪化させ、腸内常在菌を介した自然免疫系への応答調節に介在して全身的なLPS低応答性を引き起こすことがわかった。重症感染症患者に対して抗菌薬併用療法を行う場合は自然免疫系への悪影響も考慮すべきであると示唆された。本研究の内容は第54回日本麻酔科学会学術集会で発表し、論文作成中である。
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