ヒトアデノウイルスの自然免疫機構による認識においてTLR2が必須であることが確認された。 TLR2を発現させた293細胞は5型アデノウイルス(dl309)およびE1領域をβ-ガラクトシダーゼに置換したリコンビナントウイルス(Ad-βgal)を効率よく認識し、細胞内でNF-kBの活性化が認められた。しかしながら、Ad-βgalでは感染16時間後にも顕著なNF-kBの活性化が認められたが、dl309ではアデノウイルス自身の感染が誘導するNF-kBの活性化は著しく抑制されていた。われわれはアデノウイルスE1領域にNF-kB抑制活性があると考え各初期タンパク質の導入を行った。E1遺伝子のうちE1Aはこのルシフェラーゼ活性をほぼ完全に抑制したが、他の初期遺伝子E1B55Kにはこのような効果は認められなかった。E1Aの削除ミュータントを用いた解析により、E1AのCR3domainはこの抑制活性には不要であること、また N末端25アミノ酸あるいはRbとの結合に必須であるCR1、CR2がこの抑制活性にとって重要であることが明らかとなった。この結果は、E1Aがp300との結合のみでなく、RBとの結合により宿主細胞のTLR2下流のシグナル伝達を阻害している可能性を示唆するものである。さらに我々は、E1AとRbの結合によって遊離するE2Fタンパク質がNF-kBと直接結合することを見出した。 TLR2は主に細菌感染を認識する自然免疫受容体であり、ヒトアデノウイルスによるTLR2依存的な宿主自然免疫応答の攪乱は宿主細胞の細菌感染認識をも抑制し、時に重篤な細菌感染症の形成に関与することが予想される。
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