研究概要 |
歯肉溝内に形成される正常細菌叢は、レンサ球菌を中心としたグラム陽性菌により形成されるが、歯垢の蓄積と共にグラム陰性桿菌が増加する。その結果、グラム陰性菌の内毒素、タンパク分解酵素や短鎖脂肪酸など様様な病原因子が増加し歯周病原性バイオフィルムへと遷移する。しかし現在まで、この細菌叢の遷移を誘導する因子について詳細な検討はなされていない。本研究は、病原性バイオフィルム形成機序と遷移を誘導する物質の解明し、遷移阻害による感染予防を目的としている。 歯周病原性偏性嫌気性菌が大量に産生する代謝産物・短鎖脂肪酸(SCFA)は、歯肉構内に蓄積し高濃度で様様な細胞に障害をもたらす。特に酪酸はHDAC阻害剤として核酸合成に影響を与え、低濃度で合成を促進し、高濃度で阻害するといった相反する作用を持つ。申請者らは、酪酸が潜伏感染しているHIVを活性化しAIDS感染を助長する可能性があることを報告した(J. Immunol., 2009,182,3688-3695)。正常歯垢構成菌のレンサ球菌には、Mitisグループの3,mitisおよびS. gordoniiにおいて1.25mM以上の濃度で顕著な発育抑制し、一方、多くの細菌と共凝集能を持ち歯垢の蓄積に深く関わるactinomyces属菌では発育を促進した。In vivoの歯垢形成を想定しS. gordoniiおよびActinomyces naeslunndiiの単独、又は両菌共存下のbiofilm形成の検討を行った結果、A. naeslunndii単独において、発育増殖効果と同様に酪酸によるbiofilm形成は促進された。混合培養ではS. gordoniiが酪酸によるA. naeslunndiiのbiofilm形成促進作用を顕著に抑制した。この遷移にはbiofilm形成遺伝子が関与している。一連の研究から、酪酸産生歯周病原菌の増殖に伴い歯垢内正常細菌叢が排除され、病原性歯垢に遷移を促進する可能性が強く示唆された。
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