エナメル蛋白の主要物質アメロジェニンの系統発生学的性質を解明する目的で、爬虫類および両生類の一次構造を解読し、その部位特異抗体を作製して、免疫組織化学的に歯胚組織内における各ペプチドの動態を観察することを目的とした。本年度は、まだ一次構造の配列の解読が暫定的であった有尾両生類三種の配列の確定から行った。さらに、これまでまったくアメロジェニン遺伝子情報の無かった、無足類二種のcDNA配列の解読にも成功し、両生類の三つの目(Order)すべての遺伝子情報がそろった。それぞれの目の間での相同性は45-55%で、この値は両生類とヒトとの値に相当する。したがって、同じ両生類間にあってもそれぞれの目の間でかなり遺伝的な距離のあることが明らかになった。しかし、このような低い相同性にもかかわらず、N末端の21残基さらにC末端の17残基はほぼ一致し、きわめて高い相同性を示すことが明らかになった。次いで、遺伝子の三つのドメインの中で、それぞれの目に共通の10-12残基の配列を用いて、部位特異抗体の作製を依頼し(Sigma-Aldrich)、結果としてC端特異抗体だけが高い抗体価を示して、免疫組織化学に用いることができた。他の二つの部位の特異抗体の作製は来年度の課題となった。免疫組織化学による解析の結果、このC端特異抗体は有尾両生類の歯胚におけるエナメル芽細胞の分泌顆粒とエナメル基質に反応し、興味深いことに、エナメル芽細胞間にも強い反応が見られた。かつて哺乳類のcrudeな抗体を用いた研究ではこの現象は見られないことから、有尾両生類においては本蛋白が分泌後に、すみやかにC末端が切断され、それらの一部は細胞間隙に取り込まれている可能性がうかがわれる。また、このC末端特異抗体は魚類のガーパイクのエナメル質、さらにはこれらの鱗のガノイン層にも反応し、魚類のエナメル質やガノイン層を構成する物質と共通のドメインを共有することが明らかになった。なお、爬虫類の部位特異抗体は中央ドメインのものだけが高抗体価が得られたが、N末端とC末端のものは作製できず、免疫組織化学の解析と共に来年度の課題にしたい。
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