研究概要 |
歯原性嚢胞や腫瘍の発生には、歯原性上皮が関与していると考えられている。本研究では、歯胚組織への細胞増殖因子や発癌物質の影響を検索した。まず、マウス胎仔より下顎第一臼歯の歯胚組織を摘出し、TGF-α(細胞増殖因子)やTrp-P-2、ENU、MeIQx(化学的発癌物質)を加えた培養液で3日間器官培養を行い、その後に歯胚組織をヌードマウス背部皮下組織に移植した。移植2週後に移植歯胚を摘出し、組織学的、形態計測学的および免疫組織化学的(PCNA)に検索した。摘出歯胚は対照、TGF-α,Trp-P-2,ENU,MeIQx,TGF-α+Trp-P-2,TGF-α+ENU,TGF-α+MeIQx添加群に分けた。その結果、歯胚は、TGF-αを培養液に添加した群では対照よりも大きくなり、化学的発癌物質投与群では対照群よりも小さくなっていた。移植歯胚においては、TGF-αやTrp-P-2,ENU,TGF-α+Trp-P-2,TGF-α+ENU添加群ではPCNA陽性細胞が多く認められ、歯原性上皮細胞の増殖がみられた。また、TGF-α+Trp-P-2、TGF-α+ENU添加群では、歯原性上皮細胞の増殖および角化傾向や角質変性による嚢胞様空隙の形成が認められたが、Trp-P-2やENUの単独添加群では歯原性上皮細胞の増殖が認められるのみであった。本実験の結果から、TGF-αは歯胚の正常な形態形成を抑制し、歯原性上皮細胞の増殖を促進すると考えられ、また、Trp-P-2やENUはTGF-αの同時添加により、歯原性細胞の増殖や嚢胞様空隙の形成を引き起こすことが推察された。現在、歯胚組織より歯原性上皮細胞や歯原性非上皮細胞を分離して細胞培養を行い、嚢胞様病変の形成や歯の形成・分化に対しても検索を行い、研究を継続している。
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