乳癌組織における酸素分圧および転写因子HIF-1αの発現と骨転移との関連を解明することを目的として、本年度は主として以下の検討を行った。 1.骨転移巣における低酸素およびHIF-1α発現 ヒト乳癌細胞を用いた骨転移動物モデルによる検討で、骨転移巣における低酸素領域の存在が明らかにされ、その部位に一致して乳癌細胞おけるHIF-1αの発現が認められた。この結果から、骨転移における低酸素およびHIF-1αの関連が推測された。 2.乳癌の骨転移に対する低酸素の関与 (1)低酸素特異的活性化タンパクの応用 低酸素細胞特異的にアポトーシスを誘導する融合タンパク(TOP3)を作成した。さらにTOP3がin vitroにおいて低酸素下の乳癌細胞特異的にアポトーシスを誘導することを確認した。 (2)in vitroにおける低酸素の骨芽細胞、破骨細胞に対する作用 低酸素が骨芽細胞分化を抑制する一方、破骨細胞分化に対しては促進的に作用することが示された。 3.乳癌の骨転移に対するHIF-1αの関与 (1)乳癌細胞における低酸素によるHIF-1αの発現誘導 In vitroにおいて低酸素が乳癌細胞のHIF-1α発現を誘導することが確認された。 (2)恒常活性化型およびドミナントネガティブ型HIF-1α過剰発現乳癌細胞株の樹立とその性状解析 乳癌の骨転移に対するHIF-1αの関与を検討するために、恒常活性化型およびドミナントネガティブ型HlF-1α過剰発現株を樹立した。同細胞株ではin vitroにおいて細胞増殖、アポトーシス等において野生型および空ベクター導入株と比較して差を認めない一方、HIF-1αの標的遺伝子産物であるvascular endothelial growth factor(VEGF)などの増殖因子の産生に有意な影響を与えた。 次年度は、今回得られた所見を踏まえ、in vivoでの検証を中心とした検討を進めていく予定である。
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