研究概要 |
スタチンはコルステロール合成過程における重要な酵素であるヒドロキシメチルグルタリルCoA還元酵素を強く抑制し、メバロン酸の生成を抑えることにより、コレステロール合成を阻害する。スタチンは、また、動脈硬化阻止作用や抗炎症作用など、多岐にわたる作用が明らかにされている。私たちはシンバスタチンなどスタチン類が、骨芽細胞の分化を強く促進することを報告してきた(B.B.R.C.280:874-877,2001.Endocrinology 144:681-692,2003.J.Cell.Biochem.92:458-471,2004)。最近、シンバスタチンは多分化能を有する細胞で、骨芽細胞の分化を促進するとともに、脂肪細胞への分化を抑制することを見出した。 本研究では、前軟骨細胞株のATDC5細胞を用いて、シンバスタチンの軟骨細胞分化制御機構について、詳細に検討した。シンバスタチンは軟骨細胞への初期の段階で抑制的に作用した。一方、分化した軟骨細胞にシンバスタチンを添加すると、軟骨細胞の分化マーカーであるアグリカンの合成を促進1した。軟骨細胞の最終分化段階である石灰化に対しても促進的に作用した。軟骨細胞が合成、分泌する主要なたんぱく質である2型コラーゲンの遺伝子発現は、ATDC5細胞の培養中期から後期にかけて、シンバスタチン添加により促進された。さらに、軟骨の分化に重要な役割を演じるIndian hedgehog遺伝子発現は培養後期でシンバスタチンにより亢進された。 これらの結果から、スタチンは軟骨細胞に対しては、骨芽細胞と同様に、分化を促進させることが明らかになった。 一方、未分化の軟骨細胞に対して、スタチンは明確な分化促進作用を示さなかった。今後、スタチンの軟骨細胞と骨芽細胞に対する細胞分化制御機構の差異について、詳細に検討する予定である。
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