研究概要 |
目的 1)微小環境下で細胞周囲が病的な炎症性サイトカインの被爆を受けたとき、骨芽細胞がどのような運命をたどるのかを解明することは、歯周病などの骨代謝異常疾患と骨芽細胞との関連を探るうえで重要である。本研究では、歯周疾患病態モデルとして炎症性サイトカイン処理を考え、この処理により骨芽細胞はどのような機能変化を示し、その際どのようなシグナルカスケードが惹起されるかを解明する。2)口腔疾患の病態にRANKL, OPGの変動が関与する可能性ついて詳細な基礎的な検討を行い、骨破壊疾患(歯周関連疾患ならびに顎関節症など)の新たな治療戦略の構築をめざすことを目的とする。 結果 1)マウスの骨芽細胞様細胞MC3T3-E1細胞において,炎症性サイトカイン誘導アポトーシスシグナルは,mitogen-activated protein(MAP)キナーゼの活性化を伴うことを明らかにした.炎症性サイトカインは,誘導型NO合成酵素(iNOS)の活性化を伴う細胞死シグナルを強力に惹起した.RT-PCR法による遺伝子解析にて,サイトカインは,iNOSmRNAの誘導が認められ,さらに細胞内NO産生を誘導した.p38MAPキナーゼの特異的酵素阻害剤であるSB203580は,iNOSmRNAおよび,その酵素産物であるNO誘導を強力に抑制したうえに,アポトーシスの指標となるDNA fragmentationの誘導も用量依存的に抑制した.古典的なMAPキナーゼの上流域に存在するMEKの特異的酵素阻害剤PD98059は,サイトカインによるNO産生,iNOSmRNAの誘導ならびにDNA fragmentationの誘導に関し抑制効果を示さなかった.以上の結果は,サイトカイン処理された骨芽細胞において,iNOS依存性アポトーシス細胞死システムの誘導を調節する上でp38MAPキナーゼカスケードが,重要な役割を担うことを明示した(Kuzushima, Mogi et al., Archs Oral Biol).2)歯科領域の骨破壊疾患として歯周病とならんで顎関節症がある。顎関節症の病態解明を試みるために、健常者、顎関節症のdisk displacement with reduction, disk displacement without reduction, osteoarthritisの4群から滑液を得てRANKL, OPG, RANKL/OPG ratioを測定した。ヒト顎関節症、とくにosteoarthritis患者滑液中にRANKLが存在し、OPG量が健常者と比較して統計的有差を持って低下を示し、結果として有意にRANKL/OPG ratioが亢進することを初めて明示した。更にOsteoarthritis患者滑液がin vitroでヒト末梢単球からの破骨細胞形成ならびに活性化能を持つことを確認した。これらがOPGあるいはanti-RANKL-IgG添加にて抑えられることを確認し、Osteoarthritisの骨破壊の機序にRANKL/OPGが関わる可能性を初めて明示した(Wakita, Mogi et al., J.Dent.Res.)。 結果の一部は第19回日本顎関節学会(名古屋)にて発表を行った。
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