研究概要 |
本研究の目的は,臨床的に遭遇しやすい歯痛モデルラットを作り,疼痛ストレスにより,三叉神経を介する痛み情報が脳内にどのように伝わるかを,遺伝子発現の視点から解明することにある.また,ヒトにおいて唾液ストレス物質が本当にストレスマーカーになるのか,salivary α-amylase(sAA), salivary Chromogranin A(sCgA), salivary IgA(sIgA)について検討した.同時に血中ACTH・鉱質ステロイドを測定した.下記のような成果がでて,論文発表した.まず,カプサイシンによる舌痛刺激により,血漿ACTHは刺激30分後に最大になるが,血漿鉱質ステロイドは徐々に上昇した.したがってこの舌痛刺激でラットは十分にストレス反応亢進状態になるが,この時脳内では,Corticotropin Releasing Hormone(CRH)遺伝子の一次転写hnRNAは刺激15分後に最大を示し,正常の3倍になった.一方,CRH mRNAは60分後に最大を示すことがわかった.またACTHの前駆物質であるPOMC mRNAは徐々に上昇する事がわかった.この研究で世界で初めて,CRH hnRNAをreal time PCR法で定量することに成功した,CRHはストレス研究の最も重要なホルモンであり,この研究の成果は大きい(J Dent Res).また,ヒトではラットと同じように実験できないので,プレ実験として,精神的負荷試験を用いて,唾液ストレス物質を測定した.内田クレペリンテスト(U-K test)を負荷したが,血漿ACTH・鉱質ステロイド,カテコールアミンに変化なく,sAA, sCgA, sIgAにも変化がなかった.この研究では,当初の目的は得られなかったが,逆にU-K testがストレッサーとして不適当なこと,唾液ストレス物質の不確実性を暴露した結果となった(BioPsychoSoc Med).
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