ヒト多量体免疫グロブリンレセプター(polymeric immunoglobulin receptor;plgR)の細胞外領域における580番目のアラニン残基からバリン残基への変異の導入を行い、点突然変異が正しく導入されていることをDNA sequenceにより確認した。こうして得られたmutant plgRをmammalian expression vectorに挿入した。wiId type plgRに関しても同様に挿入した。これら発現ベクターをハムスター由来線維芽細胞BHKにtransfectionし、plgRの細胞外領域のfree secretory component(fSC)への酵素的切断と分泌に関して比較を行った。Metabolic Iabel法を用いたpulse-chase実験および細胞溶解液および培養上清を用いた免疫沈降実験の結果では、両者間に大きな差は認められなかった。そこで細胞表面での酵素的切断の効率を比較するべく、細胞表面plgRをビオチン標識しfSC分泌効率の比較を行った。この実験では標識3時間後の培養上清中にfSCを確認することができたが、これにおいても両者間で差は確認されなかった。plgRの細胞外切断部位として従来から報告されている606および607番目のグルタミン酸をアラニン残基に単独でまたは両者共に変換したmutantを作製し同様に比較したがやはり差は認められなかった。以上の結果からは580番目のアラニン残基の変異とlgA腎症との機能的な関連を推察し得ないばかりか、606ないし607番目のグルタミン酸が酵素的に切断される境界領域であるとする従来の報告を積極的に裏付ける結果をも得ることができなかった。このことはしかし、上皮細胞と線維芽細胞との間に酵素的切断に関して差違がある可能性を示唆するものであり今後検討の必要があるものと考えられた。
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