顎口腔領域で最も発生頻度の高い悪性腫瘍である扁平上皮癌の進展が、どのような分子機構に基づいているかは未だに明らかになっていない。我々は口腔扁平上皮癌で高頻度に発現が停止するmucosa-associated lymphoid tissue 1(MALT1)について、その発現停止機構と癌細胞の表現形に与える役割について検討した。 多くの癌抑制遺伝子発現停止の原因となっているプロモーターのメチル化をbisulfite-modified sequence、methylation-specific PCR、および5-azaによる脱メチル化処理で解析した。その結果、MALT1プロモーターは転写開始点から256bp下流のシトシンのみが特異的にメチル化され、それが発現停止の原因であることが明らかになった。MALT1の発現停止が癌細胞の表現形に与える影響を知るため、野生型MALT1、機能欠失型MALT1、およびMALT1のsiRNAを用いて生物学的アッセイ法で多角的に解析した。In vitro浸潤アッセイ、3次元コラーゲンゲル浸潤アッセイ、ゼラチンザイモグラフィー、evasionアッセイ、wound healingアッセイ、およびマウス造る腫瘍性アッセイを行った。野生型MALT1の発現により、細胞の浸潤能、細胞外マトリックス分解能、遊走能および腫瘍発育速度は低下したのに対し、機能欠失型MALT1を発現させた場合はこれらの細胞表現形は著しく亢進した。また、siRNAを導入して内在性MALT1および野生型MALT1の発現をブロックした場合にも同様の亢進が観察された。これらの結果から、MALT1は口腔癌細胞の高度悪性形質を特異的に抑制し、MALT1のエピジェネティックな発現抑制が癌の進展と予後不良の原因の一つであると強く予想される。
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