サリチル酸を含む非ステロイド抗炎症薬(NSAID)の骨代謝に対する影響は、いまだに明確な結論は得られていない。アスピリンに代表されるNSAIDにはCOX(シクロオキシゲナーゼ)阻害作用があり、骨芽細胞に作用してPG(プロスタグランジン)E2合成阻害を介してRANKLの発現を阻害し、間接的に破骨細胞分化を抑制することが報告されている。しかし、NSAIDの破骨細胞に対する直接的な影響については明らかではない。 サリチル酸ナトリウムは、消炎鎮痛剤として臨床で広く使用されているが、アスピリンと異なりCOX阻害作用はなく、骨芽細胞のRANKL発現を阻害しないと考えられる。また、サリチル酸ナトリウム(あるいはアスピリン)によりERKが阻害される一方p38は活性化されることが報告されている。RANKLによる破骨細胞分化誘導において、ERKの阻害によっては分化が促進され、p38の阻害によっては分化が抑制されることから、我々はサリチル酸ナトリウムが破骨細胞分化に影響を及ぼすのではないかと推論し実験を行った。 本年度の研究において、RANKLによるマクロファージ様細胞株RAW264の破骨細胞への分化誘導が5mMサリチル酸ナトリウム(あるいはアスピリン)の添加によって促進されることが明らかになった。他のNSAID(イブプロフェン、メロキシカム)では破骨細胞分化誘導は認められなかった。ウェスタンブロット法による検討では、サリチル酸ナトリウム(あるいはアスピリン)によりERKのリン酸化は阻害され、p38のリン酸化は促進されたが、他のNSAIDではERKやp38のリン酸化の変化は認められなかった。これらの結果から、サリチル酸ナトリウム(あるいはアスピリン)はERKの阻害とp38の活性化を介して破骨細胞分化誘導を促進することが示唆された。
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