研究概要 |
本研究では,酸や機能性モノマーの分子構造とアパタイト表面における化学的相互作用との関連性について分子レベルで解析することを目的とする。本年度は,歯科治療で用いられている機能性モノマーの内,10-MDPに焦点をあてアパタイトパウダー,アパタイト焼結体,象牙質およびエナメル質に対しどのように作用するかを検討した。さらに,得られた結果をもとに10-MDPの反応メカニズムを分子レベルで解析した。 歯面およびそのモデルには,合成アパタイトの粉体,HOYAペンタックス社製アパタイト焼結体APP-101,ウシ抜去歯エナメル質,ウシ抜去歯象牙質の4種類を用いた。また,処理液にはクラレメディカル社製メガボンドセルフエッチングプライマー,15wt%10-MDP試作セルフエッチングプライマー(エタノール45wt%,蒸留水40wt%)の2種類を用いた。 処理液で反応させた歯面およびそのモデルを薄膜X線回折にて分析した結果,10-MDP溶液は処理面により反応性が異なり,特に,メガボンドセルフエッチングプライマーでは,象牙質表面には10-MDP分子が2分子向かい合った形の層状構造を形成するものの,エナメル質表面では検出限界以下であることが明らかとなった。 また,15wt%10-MDP試作セルフエッチングプライマー(エタノール45wt%,蒸留水40wt%)で処理したウシ抜去歯の象牙質を被着体とした引張り接着試験より,10-MDPの層状構造が厚い場合は接着力が低下することが示唆された。さらに,破断面を薄膜X線回折にて分析したところ層状構造が観察されたことから,層状構造の内部で破断したことがわかった。これは,層状構造の内部まで光重合触媒が浸透せず,重合が不十分になったためと考えられる。そこで,試作プライマーに光重合開始剤を添加したところ,接着強さは優位に増加し,改めて重合の重要性を認識した。
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