研究概要 |
本年度は培養ヒト歯髄細胞の炎症性サイトカイン発現,石灰化関連タンパク質発現およびマイグレーションに及ぼす抗菌ペプチドLL37の影響を調べるため,以下のとおり実施した。 (1)方法:6代継代歯髄細胞は10%FBSを含むDMEMを用いて培養した。P2X7レセプターの遺伝子発現レベルをRT-PCRによって,タンパク発現レベルを免疫染色によって調べた。IL-6とIL-8(炎症性サイトカイン)およびALPaseとDSPP(石灰化関連タンパク質,分化の指標)のmRNA発現をリアルタイムPCR法で解析するため,合成したLL37(10μg/ml)およびP2X7レセプターのアゴニストあるBenzoylbenzoyl-ATP(Bz-ATP:100μM)で歯髄細胞を30分間前処理した後,S.aureus由来のペプチドグリカン(PGN:10μg/ml)で歯髄細胞を刺激し,さらに6時間培養した。マイグレーション(走化能):wound healing assayおよびTranswell insert法を用いて評価した。 (2)結果:1.培養ヒト歯髄細胞はP2X7レセプターを発現していた。2.LL37とBz-ATPはPGNによるIL-6とIL-8のmRNA発現促進を抑制した。3.LL37はマイグレーションを促進したが,Bz-ATPは影響を及ぼさなかった。4.LL37はALPaseとDSPPの遺伝子発現に影響を及ぼさなかった。 LL37によるサイトカイン発現抑制作用はP2X7レセプターを介していると推察される。一方,P2X7レセプターはマイグレーションの促進に関与しないことが考えられた。このようなデータの結果を踏まえ最終年度となる来年度は抗菌ペプチドの歯髄・象牙質複合体の再生における有用性について明らかにするために,抗菌ペプチドの作用メカニズムの詳細な解析およびin vivoでの検討を進めたい。
|