くさび状欠損の発生メカニズムの一つに咬合説(abfraction)が考えられており、有限要素法による応力解析法を用いて咬合力により歯に生じる応力が集中する部位とくさび状欠損の発生が認められる歯頚部と一致するという点から解釈する報告がこれまで多く行われている。しかし、今までの研究の多くは、二次元モデルを用いており、特有な歯の解剖学的形態や複雑な咬合形態(咬合圧や接触部位)などが三次元的にモデル化できないことから、二次元的に応力集中部位を示すのみの解析結果となっている。そこで、今回は、咬合による荷重を負荷した後に生じた変形状態からくさび状欠損の発生を検討することを目的に、ヒト歯のマイクロCTイメージから三次元有限要素(FE)モデルの構築を試みた。さらに歯のひずみをひずみゲージにより測定し、両者の結果を比較することで、構築したFEモデルの妥当性を検討した。 (結果)CTスライス断面白黒濃淡画像から歯表面、象牙質、歯髄についてそれぞれ領域の2値化閾値を設定して2値化画像に変換し、それぞれの部位の三次元輪郭点群データの抽出を行った。この点郡データを点群処理ソフトに部位ごとに取り込み、点群データの間引き、点群編集、ポリゴン処理、サーフェス処理などを行い、三次元CADモデルを部位ごとに作成した。さらに、CADソフトに取り込み、エナメル質部位の抽出、ジメトリの修正などを手作業で順次行い、その後、全体の組み合わせを行い最終的にエナメル質、象牙質、歯髄の3閉空間からなる歯の三次元ソリッドモデルを作成した。構築したFEモデルの総要素数は20773、総節点数は30718であった。主弾性ひずみの解析値と実験値との相関係数は0.88であった。以上の結果から、ヒト歯のマイクロCT像から三次元FEモデルを構築でき、ひずみの解析値と実測値を比較することによりFEモデルの妥当性を確認することができた。
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