くさび状欠損の発生に関与する歯頸部の応力分布の解析に用いられている有限要素法解析モデルの多くは、二次元モデルであり、歯の特有な解剖学的形態や複雑な咬合負荷状態などが三次元的にモデル化されていない。また、咬合負荷は1点接触のみの研究がほとんどであり、複数の負荷部位による接触や異なる負荷度合いによって歯頸部に生じる応力の分布状態はまだ不明である。そこで、今回はヒト抜去上顎第二小臼歯のCT像を元に作成した三次元有限要素モデルを用いて、口蓋側咬頭頂、近心辺縁隆線および遠心辺縁隆線の3箇所を荷重の負荷部位とし、負荷部位ごとに荷重の割合を変化させるとともに、負荷方向は歯軸方向(0度)、頬舌方向に15、30、45度と傾斜させ、近心側から頬側をわたって遠心側までの歯頸部セメントエナメル境(CEJ)に沿ったエナメル質内に発生する主応力の分布を検討した。 (1)口蓋側咬頭頂のみに荷重を加えた時、負荷角度の増加につれて、遠心-頬-近心側のCEJに現れる引張主応力は増大し、45度の時に最大値に達した。また、引張応力のピークは頬側歯頸部の中央より近遠心側に偏る両サイドに大きく現れた。 (2)近心辺縁隆線または遠心辺縁隆線の部位に口蓋側咬頭頂と同時に負荷すると、45度の場合では応力の減少はみられるが、0度の場合ではむしろ増大した。しかし、3点に同時負荷では、負荷方向に関係なく、歯頸部の引張主応力は減少し、特に0度ではほとんど消失した。 (3)3点負荷時の荷重割合を変化させると、引張応力も減少傾向になることが認められた。 以上のことから、CEJに沿った歯頸部エナメル質に発生する最大主応力は負荷方向の傾斜の増加により引張応力が増大するが、負荷部位の増加や荷重割合の調整によって、歯頸部に発生する引張応力は軽減でき、くさび状欠損の形成につながる引張応力を抑制することが可能であることを示唆された。
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