我々は痛み刺激に対する脳磁場の反応、そしてその反応に対する咬合状態の影響を明らかにし、さらに顎位の変化が中枢制御に与える影響について検討したいと考え、研究を進めてきた。これまで咬合状態に自他覚的な異常を認めない個性正常咬合の被験者を対象とし、CO2レーザーによる疼痛刺激を手首に与えた場合の咬合、非咬合時の脳の反応の解析を試みてきたが、予備的に行ってきた実験結果と異なり、明らかな差異が検出されていない。 よって本年度は腓腹筋部に電気刺激を与えた場合の重心動揺が咬合、非咬合時で変化するか否かを検討し、顎口腔系の状態が姿勢制御に与える影響について考察することとした。 被験者は年齢24-44歳の問診により平衡感覚に異常を認めず、咬合状態に自他覚的な異常を認めない個性正常咬合の男性10名である。被験者に対し、閉眼、閉足位における重心動揺を下顎安静位、咬頭嵌合位、電気刺激負荷時の下顎安静位、電気刺激負荷時の咬頭嵌合位の4条件で計測を行い、比較検討した。重心動揺の測定にあたっては60秒間における軌跡の外形面積と軌跡長を検討した。外乱刺激としての電気刺激には日本光電社製電気刺激装置を用い、表面刺激電極を右側腓腹筋部に設置し、疼痛を発生させない最大刺激量を負荷した。 外形面積の平均は下顎安静位856±422mm2、咬頭嵌合位876±397mm2、刺激負荷時の下顎安静位1163±626mm2、刺激負荷時の咬頭嵌合位963±447mm2であった。軌跡長の平均は下顎安静位2256±429mm、咬頭嵌合位2318±369mm、刺激負荷時の下顎安静位2445±418mm、刺激負荷時の咬頭嵌合位2374±451mmであった。このことから、咬合は姿勢の安定に影響を与えている可能性が示唆された。
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