研究概要 |
歯髄細胞は数種類の異なる細胞から構成されていることが知られている。しかしながら,その活性は低く,長期にわたる継代培養は困難である。そこで本研究では,歯髄細胞の性質をより詳細に検索するためにヒト歯髄由来細胞株の樹立と解析を行った。本研究では我々はSV40 large T antigenを用いて,Lipofectamine法による遺伝子導入を行い,9種類のクローン細胞株を樹立した。樹立した細胞株のすべては,anti-vimentin,anti-fibroblast抗体に陽性反応を示し,またanti-collagen type Iおよびtype III抗体にも陽性反応を示し,線維芽細胞様細胞の性格を持つ事が判明した。さらに,それぞれの細胞株間で免疫蛍光染色の強度に明らかな差が認められた事から,同じ線維芽細胞様細胞であってもその特徴には差があるものと考えられた。そこで,樹立されたクローン細胞株間に遺伝子発現の違いが見られるか否かを検討するためにdifferential displayを行った。その結果,各細胞間で発現の異なる8種類の遺伝子を検出する事が出来た。更に本研究では現在までに歯髄組織における発現が報告されていないThy-1に注目し検索を行い,歯髄組織中には明らかに陽性を示すThy-1^+細胞が存在することが判明した。今回,differential display法で使用したarbitrary primerは20種類に過ぎず,primerの種類を増やす事によってさらに報告されていない遺伝子の検出が可能であると考えられ,今後の検討課題となる。Thy-1^+細胞の存在はまた歯根膜においても確認されており,細胞増殖活性に差がある可能性が示唆されている。さらにThy-1は細胞接着,細胞伝達,アポトーシスもしくは細胞増殖などの多くの生物学的機能を寄与していると報告されており,歯髄組織における発現の機能的意義については今後更に検討する必要がある。
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