研究概要 |
患者の治療時,できる限り少ない侵襲でとどめるという考え,すなわちminimal intervention(MI)のコンセプトが歯科医師の間で浸透しつつある.う蝕治療に関してもMIにより歯の削除量を減らすためにう蝕を染色するう蝕検知液の改良やう蝕を選択的に削除する器機の開発が行われてきた.しかし,う蝕治療において重要となるのは最終的には術者の感覚,すなわちう蝕を染色した場合にはどこまで染まっているかを判断する視覚,う蝕を削除する場合には手指の感覚に頼っている部分が多く,う蝕治療の良否が術者の経験に左右される可能性が高い.今年度,我々は各種波長のレーザーの持つ色による吸収特異性に注目し,赤,青,緑,紫色のう蝕検知液で染色したろ紙にレーザーを照射し,ろ紙を透過するレーザーのエネルギーをレーザーエネルギーセンサーで測定し,その吸収率を算出し,レーザー波長の色による吸収特異性を検討したので報告する.う蝕検知液はすでに市販されている赤,青(カリエスチェック,日本歯科薬品)に加えて,紫,緑の試作う蝕検知液を作製し,実験に供した.定性ろ紙(No.2 厚さ0.26mm, ADVANTEC)を直径10mmに成型し,う蝕検知液を1滴づつ滴下し,冷暗所で自然乾燥を行った.乾燥後,染色したろ紙を介してレーザーパワーメーター(FieldMaxH, Coherent)で透過するエネルギーを測定した,今回使用したレーザーとしては半導体レーザー発振装置として,P-LASER^*(松下電器産業)を,Er: YAGレーザー発振装置としてErwinAdvErl^*(モリタ製作所),CO_2レーザー発振装置としてPanalas^*C05Σ(松下電器産業)を実験に供した.また照射モードは半導体レーザーではCWモード,表示出力500mW, Er: YAGレーザーでは35mJ,10pps,先端チップはC400F, CO_2レーザーではCWモード,表示出力0.5W,チップは2Aで照射した.ろ紙を介さずレーザーを照射し,得た数値をコントロールとし,染色による照射エネルギーの吸収率を算出した.算出したデータは一元配置分散分析とScheffeの検定で統計処理を行った(n=3).結果としては半導体レーザーでは吸収率は赤,紫,青,緑の順で高くなった.赤に対して青,緑で有意差が認められた.Er: YAGレーザーは赤,紫,青,緑の順で高くなった.COターザーでは青,赤,緑,紫の順で高くなった.Er: YAGレーザー,CO_2レーザーでは各色の間に有意差は認められなかった.以上のことから半導体レーザーに対して,青もしくは緑のう蝕検知液でう蝕を染色した場合,選択的除去ができる可能性が示唆された.
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