研究概要 |
工業製品やオールセラミッククラウン・ブリッジのフレーム材料として幅広く使用されているイットリア安定型ジルコニア(Y-TZP)は低温劣化という欠点をもつ.これに対して,セリア安定型ジルコニア(Ce-TZP)とアルミナ(Al_2O_3)をナノ複合化させた材料は,Y-TZPに匹敵する強度や靭性をもちながら低温劣化を示さない.CAD/CAMシステムと比較して,材料のロスが少なく高価な装置を必要としない電気泳動堆積法(EPD)を用いて,このようなナノ複合材料を成形することができれば,信頼性の高いセラミックフレームが容易に作製できるものと思われる.そこでEPDに最適化した歯科用ジルコニア系ナノ複合材料を開発することを目的として,複合化粉末作製条件,EPD条件の検討を行った. 最初に,Ce-TZP(松下電工)とα-Al_2O_3(松下電工)_よびγ-Al_2O_3(シーアイ化成)を用いてナノ複合化粉末の作製を試みた.ナノ複合化には粉末冶金的手法を用いた.複合化粉末作製時の仮焼温度,粒度調整方法における条件を変化させて検討し,作製した粉末における微細構造評価を行った.次に,非水系を溶媒として数種の濃度のサスペンションを作製し,電極基盤にグラファイトを用いてEPDを行い,堆積重量を測定した.そして,EPDによる成形体を教種の焼結温度を用いて焼結後,各温度で得たバルク体にガラスを浸潤させて試料を作製した.作製した試料における微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し,硬度試験機(AVK, Akashi)を用いて硬度を計測した.さらに硬度試験機で試料についた圧痕の大きさと亀裂の長さから破壊靭性値を求めた. その結果,Ce-TZPとγ-Al_2O_3を用いて1300℃で仮焼した粉末において均一にマトリックスの結晶粒内に第二相粒子が取り込まれた複合化粒子が確認できた.また,EPDを行うと,仮焼温度が高くなるにつれて拡散反応が促進され粒径が大きくなり,堆積重量が減少する傾向がみられたが,遊星型ボールミルにより微細に粒度調整することで堆積重量が増加することが可能であった.1300℃の仮焼温度と遊星型ボールミルで作製した複合化粉末をEPDにより成形し1250℃で焼結した後,ガラス浸潤を行った試料の硬度は9.8GPa,靭性値は7.1MPa・m^<1/2>であり,破壊靭性の高い試料が作製できた.このことから,複合化粉末を作製するには,反応活性の高いγ-Al_2O_3を用いることが有効であり,微細に粒度調整することによりEPDに対応可能な材料が作製でき,堆積後に適切な温度で焼結しガラス浸潤を行うと機械的特性を向上させることが可能であることが示唆された.
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