研究概要 |
α-TCP系セメント硬化体中のハイドロキシアパタイト(HAP)結晶にストロンチウム(Sr)を導入させるために,Sr含有溶液とリン酸含有液を使用し,セメント硬化体が得られるかを検討した.その結果,α-TCP粉末にSrリン酸含有溶液とリン酸含有溶液の同時使用により練和すると,セメント硬化体が得られた.その硬化時間は練和液の濃度が高いほど短くなることがわかった.Sr含有溶液を用いたセメント硬化体の間接引張強さ(DTS)はSr無含有のCa溶液の場合よりも有意に上昇した(ANOVA, p<0.05).また,低濃度溶液での練和はDTSを高くする結果を示した. セメント硬化体の結晶相を粉末X線回折を用いて確認したところ,硬化後24時間のセメント結晶相のほとんどはHAP結晶であった.しかし,練和液の組み合わせによってはα-TCPが多量に残留するセメント硬化体があった.硬化1週間後では,どの試料にもα-TCPの残留は認められず,ほとんどはHAP結晶であった. Sr含有溶液を使用した場合には,硬化体の結晶相にSrアパタイトが生成されていた.Sr-HAPの生成に導入されなかったSrは,リン酸と結合してSrHPO_4がセメント内に生成されたが,硬化後1週間でSrHPO_4は消失することがわかった. セメントの溶解性は,Sr+Ca含有溶液を用いた場合に著しく大きくなる傾向が認められた.これは,HAP中にCaより大きなイオン半径をもつSrが導入されると結晶が不安定になるためと考えられた.生成したHAP結晶はすべて板状であることから,リン酸八カルシウムを経由したHAPおよびSr-HAPであることが推察された. 以上のことから,α-TCP粉末をSr含有溶液で練和することにより,セメント硬化体中のHAP内にSrが導入できることは明らかとなった.
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