研究概要 |
口腔環境因子が高次脳へ何らかの影響を及ぼしていることは示唆されているもののアルツハイマー病(AD)の発症との関連性についての報告はない。このようなことから、本研究は、口腔環境因子がADの発症を予防あるいは遅延することが出来るか否かを知る目的で、脳内の神経伝達物質やフリーラジカルの動態について調べる。本年度は、神経伝達物質の一つである5-HTをターゲットに実験を行なった。 実験方法は、3週齢のWistar系ラットをnormal硬食群およびnormal軟食群,アルツハイマー(AD)モデルrat硬食群およびADrat軟食群の4群に分け,離乳直後から硬食群には固形の飼料を,軟食群には粉状の飼料を与え飼育した.ADrat群には10週齢の時点からβ-アミロイド蛋白(1-40)(Aβ1-40)を2週間にわたり持続的に注入した.硬食および軟食で10週齢まで飼育したラットを,全身麻酔下で右側側脳室にBRAIN INFUSION KIT(Alzet社製)を埋入・固定し,浸透圧ミニポンプ(Alzet社製)を背部皮下に挿入した後,再度,切開部を縫合してさらに2週間飼育した.Aβ1-40は0.1%トリフルオロ酢酸を含む35%アセトニトリルに溶解し,浸透圧ミニポンプを用いて300pmol/12μl/dayの注入速度でラット側脳室に注入した.12〜13週齢の時点で,全身麻酔下においてプローブを埋入固定し,脳脊髄液の潅流を行った.その後,高濃度のカリウムにより30分間刺激し,再び脳脊髄液を還流した. マイクロダイヤリシス法により,5-HTの経時的な変化を観察したところ,normal群およびADrat群ともに基礎遊離量に違いは認められなかった. また、高濃度のカリウムで刺激したところnormal群では変化は見られなかったものの、ADrat群においては、硬食において有意な増加が見られた。以上の結果から,食物性状の違いによる口腔環境因子の差異が,脳内の神経伝達物質である5-HTの遊離能に影響を及ぼす可能性が示唆された.
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