循環器系疾患を有しない70歳以上の高齢者4人と若年の健康成人4人を対象とし、安静下で心電図信号、非観血的動脈圧波形を記録した。得られた信号より最も安定した3分間の連続データを抽出し一連の解析を行った。まず、ピーク検出法でRR間隔を連続的に算出したのち、Hanning windowを用いてフーリエ変換し心拍パワースペクトルを得た。同様にABPについてもパワースペクトルを算出した。また、カオス解析として心電図、RR間隔変動、およびABP信号からリターンマップ、3次元アトラクタを作成した。3次元アトラクタ算出時の埋め込み次元は5次元とした。システム同定では、インパルス応答、ステップ応答、プロセスモデルによるパラメトリックモデル推定を行った。 その結果、process Modelsの各パラメータについては高齢者群と若年者群の間に統計学的な有意差は認められなかった。最適なパラメータ設定を十分に明らかにできなかったために再現性の高い状態方程式が得られなかったことが影響していると予測している。しかしながら、心血管系のシステム同定はより高感度に加齢による循環系制御能の低下を検出できるtoolとなりうる可能性が高いと思われた。 一方、システム同定は高いスキルが要求され、解析パラメータ設定や解析方法の選択に熟練を要する。この点が再現性という観点からみたときに予想以上に困難であった。今後は各パラメータの設定およびシステム同定方法の最適な選択を試み、より安定した状態方程式を算出できるようにする必要がある。
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