研究概要 |
異常血圧上昇は高齢者歯科治療において最も多いmedical emergencyである.臨床的問題は脳卒中,大動脈解離などの重篤な結果を招きうる点にあり、その予測は臨床的意義が高い。しかし、生体は高度な複雑系であり古典的予測はほとんど無効であった。システム同定は計測データからシステムの動的モデルを構築する数学的手段であり、システム内を明らかにする必要がない。このためブラックボックスである生体の予測には有用な手段と思われる。本研究はシステム同定による異常血圧上昇予測が目的である。一方、臨床疫学的情報として実際の異常血圧上昇の発生頻度、(静的な)患者背景因子との関連についても明らかにする必要がある。ここでは異常血圧上昇のうち、より適切な指標であるexcessive hypertension (>190/100mmHg)について、計1872回(989名)の高齢者歯科治療記録について検討した(2008年度歯科麻酔学会).その結果、excessive hypertensionは1872回中173回(9.2%)、989名中125名(12.6%)に認められた.多重ロジスティック回帰分析では初診時高血圧(≧180/110mmHg)が有意な相関を示した.ついで、高齢者と若年健康成人を対象に、心電図および血圧変動のスペクトル、カオス解析(リターンマップ、3次元アトラクタ)を計測し、システム同定としてインパルス応答、ステップ応答、プロセスモデルによるパラメトリックモデル推定を行った。その結果、process Modelsの各パラメータについては群間に統計学的有意差は認めなかった。パラメータ設定が適切でなかったために再現性の高い状態方程式が得られなかったことが影響したと考察している。解析パラメータ設定や解析方法の選択に再考が必要と思われた。
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