研究概要 |
われわれは口腔粘膜の上皮化機構に注目し、口腔粘膜ケラチノサイトそのものの細胞生物学的特性を表皮ケラチノサイトと比較するという新しい観点から、この研究計画においては、口腔粘膜における創傷治癒機構解明に着手した。正常口腔粘膜(頬粘膜(非角化)および歯肉(錯角化)),正常皮膚を患者の同意のもと採取し、得られた組織を組織評価用にH-E染色を作製、またStem like cellの局在を検討するため、ケラチン19等について免疫染色を行った。比較対照として、epithelial hyperplasiaの病理組織診断を得た組織および口腔粘膜悪性腫瘍組織についても組織採取し、H-E染色ならびに上記と同様の免疫染色を行った。細胞エネルギー代謝に関しては,GLUT1抗体を用いて、またグルコースの代謝産物であるグリコーゲンや脂肪のケラチノサイト内の蓄積状態の検討のため,各種上皮組織,表皮のPAS染色を中心とした特殊染色を行った。以上の実験結果から、皮膚表皮に比較して口腔粘膜上皮ではパルミチン酸構成比の高いケラチノサイトが上皮全体に分布することが明らかとなり、口腔粘膜上皮は皮膚表皮に比較して、広い範囲でグルコース代謝が活発であり、創傷治癒に有利な環境と考えられた。また、細胞分化の亢進に従いグルコース代謝が低くなり、有棘層上方の非分裂細胞では代謝に不必要なエネルギーをグリコーゲンとして貯蔵し、創傷時の動的活動におけるエネルギーに使用すると推察される結果であった。口腔粘膜上皮では皮膚表皮に比較して有棘層が極めて厚いことから、より創傷治癒に有利な環境であると考えられた。
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