研究概要 |
平成18年度はダイオキシン(TCDD)による口蓋裂発症モデルマウスに対する葉酸の予防効果をin vivoにて検討したが,葉酸の口蓋裂抑制効果は軽度で,統計学的に有意なものではなかった.従ってダイオキシンにより誘発される口蓋裂に対しては葉酸投与の予防効果は少なく,葉酸の体内での核酸およびアミノ酸代謝にかかわる経路とTCDDの薬理作用点にはgapがあることが示唆された. そこで平成19年度は,TCDDによる口蓋裂誘発のより詳細なメカニズムを検討することとした。胎生14日から18日までの口蓋をHE染色で組織学的に,走査型電子顕微鏡(SEM)で形態的に,より詳細に観察した.その結果,TCDDを投与されたマウスの口蓋は,両口蓋板の挙上は遅れるものの,その後の接触,癒合という過程は正常マウスと同様な発生過程をとる個体が多くみられた.しかし,出生直前には100%口蓋裂を発症していたことから,口蓋は一旦癒合した後に再び解離していることが示唆された. さらに,回転式の器官培養装置を用い,胎生12日目の口蓋の器官培養を行った.TCDD濃度を0.1ng/m1, 1. Ong/m1, 10ng/ml, 50ng/m1となるように調整し,72時間培養した.その結果,口蓋裂の発生率はTCDD濃度が高くなると有意に増加したが,1ng/m1から50ng/m1では差がなく,約半数の口蓋は癒合していた.培養口蓋では頭蓋を除去しているため,口蓋全体が通常より小さいことから,癒合後の解離現象がなく,結果として口蓋裂発生率が少なくなったものと推察された. 癒合後の解離という現象に着目し,口蓋形成に関与する代表的な因子につきRT-PCR,免疫染色を用いて検討した.その結果,FGFR1, MSX1, TGF-β3の発現がdown-regulateされていることが示唆された. これらのことから,TCDDによる口蓋裂発生のメカニズムは,口蓋板の挙上,成長,接着,癒合の各段階での障害に加え,癒合後の解離現象も関与していることが考えられた.口蓋裂が多因子閾説で説明されていることと合致するが,その予防法の確立にはさらなる研究が必要であると思われた.
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