線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)の一つであるKGFRは、KGF/FGF-7の受容体遺伝子である。我々は唾液腺腫瘍の悪性化過程においてFGF-2の発現異常および過剰発現を伴い、さらに悪性化するに従いKGFR遺伝子の発現が消失し、唾液腺上皮では発現していないFGF-2の受容体遺伝子であるFGFR1-IIIc遺伝子が発現してくることを明らかにした。 本研究では、唾液腺腺癌細胞および野生型KGFR遺伝子を導入した唾液腺癌細胞における遺伝子の発現を体系的、網羅的に捉え解析した。また癌遺伝子や癌抑制遺伝子産物のタンパクの構造や機能の変化のみならず、それに連動したタンパク質発現量や翻訳後修飾の変化を含め解析した。さらにshRNA発現ベクターを用いてFGFR1-IIIc遺伝子発現を抑制することによりFGF2-FGFR1-IIIc系シグナルを遮断した。FGFR1-IIIc siRNAを導入された細胞の増殖能は低下した。これらFGF-FGFRシグナルを操作することにより誘導された細胞分化・アポトーシス・増殖抑制に関連する遺伝子・タンパク質群についてcDNAマイクロアレイおよびプロテオーム解析にて検討した。 その結果、野生型KGFR遺伝子を導入することにより約900遺伝子の発現が上昇し、約400遺伝子の発現が低下した。アポトーシス関連遺伝子、癌関連遺伝子、細胞周期関連遺伝子およびシグナルトランスデューサーの変動が認められた。またKGFR導入細胞とFGFR1 siRNA導入細胞間で発現遺伝子群を比較すると50以上の遺伝子がオーバーラップした。 次にFGFRと連動するタンパク質群をプロテオーム解析にて検討した。平均2倍以上異なるスポットが80個以上検出された。一方、FGFR1 siRNAを導入することにより100個以上のタンパク質スポットが変動した。
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