研究概要 |
ラット歯髄の初代細胞を用いて内胚葉組織への分化転換のための予備的実験を行った。アルカロイドCyclopamine,2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one(LY-294002)およびWortmanninを各々添加し,転写因子Pdxlの発現の誘導を試みたが,添加後1週間までPdx1の発現誘導は認められなかった。次に真核細胞でPdxlを発現するベクターを構築した。Pdx1のcoding region(852bp)のN末端に真核生物のKozac配列を挿入したDNAを合成した。歯髄細胞への遺伝子導入ベクターには,IRES配列を含み,クローン化された目的遺伝子とZsGreen1の翻訳領域の双方が一分子のmRNAから翻訳され,緑色蛍光を発する細胞の100%が非融合タンパク質として目的遺伝子を発現できる系を用いた。分化能を評価するために分化誘導過程で経時的に総RNAを調製し,リアルタイムRT-PCRを用いて内分泌系細胞への分化制御に関わる遺伝子の発現を調べた。導入3日後にPdx1の顕著な発現を認め,導入8日後にその発現は9.2%に低下した。抗Pdxl抗体による免疫蛍光染色において,G418選択下で導入3日後に緑色蛍光を発する細胞が観察された。導入3,8日後において内分泌前駆細胞マーカーであるNgn3発現の誘導は認められなかった。また,膵島を構成する細胞マーカーであるglucagon,insulin, pancreatic polypeptideの発現誘導は観察されなかった。一方,somatostatinの発現は,導入3日後に約7倍以上の発現誘導が認められた。この実験系で内分泌細胞系譜へ分化誘導できる可能性が示唆され,内分泌細胞系譜への分化には,Pdx1に加えてPtfla,Ngn3の発現を制御する必要があり,今後の課題とした。
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