研究概要 |
本研究は癌細胞の浸潤・転移の複雑なプロセスの中で基底膜浸潤過程に焦点をしぼり,そのメカニズムの解析を試みた研究である。浸潤様式の異なった細胞株(組織悪性度は山本・小浜の分類(Y-K分類、1982年))を用い,3種の口腔扁平上皮癌細胞の浸潤能と低分子量GTP結合蛋白質の発現および活性の差異の検討,そして口腔扁平上皮癌細胞と線維芽細胞を混合培養することによる浸潤能の変化,さらには混合培養条件下における基底膜分解酵素マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP-2,MT1-MMP)発現が浸潤能に与える影響を検討した。 その結果,浸潤様式の異なった3つの細胞株のなかで,臨床的に悪性度が高いとされた細胞であるHOC313細胞は,癌細胞単独培養では高い浸潤能を示さなかったものの,線維芽細胞との混合培養条件において高い浸潤能を発揮した。さらにその混合培養条件で,HOC313細胞と線維芽細胞へのMMP-2、MT1-MMPのsiRNA導入によるプロテアーゼ発現を抑制したところ,MMP-2に関しては、線維芽細胞側のMMP-2を抑制した場合に、浸潤能が顕著に抑制された。またMT1-MMPに関しては、扁平上皮癌細胞側のMT1-MMPを抑制した場合に、浸潤能は著明に抑制された。すなわち,扁平上皮癌細胞は線維芽細胞の分泌しているMMP-2を有効に利用し、自身のMT1-MMP発現をプロテアーゼカスケード活性化のキートリガーとしている可能性が示唆された。
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