研究概要 |
口腔扁平上皮癌について臨床検体および培養細胞株を対象に検討し,以下の知見を得た。 p53蛋白発現の予後因子としての検討では、p53蛋白陽性症例を辺縁型と散在型、その混合型に分類し、検討した結果、p53蛋白発現の有無のみでは、臨床病理学的所見および5年累積生存率との相関は認められなかった。しかし、p53の蛋白発現様式は腫瘍細胞の分化度、局所リンパ節転移、5年累積生存率と有意に相関を示し、辺縁型p53陽性症例の予後は良好であったのに対し、散在型p53陽性症例の予後は不良であった。以上より、口腔癌患者におけるp53蛋白発現様式は腫瘍の悪性度、さらには臨床像を把握する上で重要であり、口腔癌の予後因子として意義あるものと考えた。 次に口腔扁平上皮癌におけるRAS関連遺伝子のジェネティックおよびエピジェネティックな異常の解析としてRASシグナル経路における遺伝子の異常メチル化を解析し、OSCCにおいて同経路の異常がいかに関わっているか検討した。OSCC細胞株17株におけるRASSF family遺伝子の異常メチル化は、RASSF1(7/17:41.2%)、RASSF2(12/17:70.6%)、RASSF5(4/17:23、5%)とRASSF2に高頻度に認めた。また、RASSF2の発現が消失している細胞株にRASSF2遺伝子を導入すると、コロニー形成の抑制を認めた。一方、OSCC臨床例の46症例では、RASSF1(6/46:13.0%)、RASSF2(12/46:26.1%)、RASSF5(5/46:10.9%)に異常メチル化を認め、H-RASの変異は1症例に認めた。以上の結果から、OSCCにおいてRASシグナル経路の異常はこれまで考えられていたよりも高頻度に認められ、RASシグナル経路の異常が治療の分子標的となる可能性が示唆された。また、P16遺伝子のメチル化は口腔癌細胞15株のうち5株(33.3%)、一方臨床検体では24/96(25%)に認められた。またp16のメチル化はT分類と相関し、腫瘍径の増大が腫瘍細胞のHeterogeneityを引き起こす可能性が示唆された。 口腔癌における形態学的悪性度の獲得と共に接着因子(β-カテニン)は、発現の消失を示した。さらにこの発現の消失に遺伝子のプロモーター領域におけるメチル化が関与しているかを現在検索している。
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