研究概要 |
口腔扁平上皮癌について臨床検体および培養細胞株を対象に検討し,以下の知見を得た。 p53蛋白発現の予後因子としての検討では、口腔癌(OSCC)症例140症例のp53蛋白発現について陽性症例を辺縁型と散在型、その混合型に分類し検討した。その結果、p53蛋白発現の有無のみでは、臨床病理学的所見および5年累積生存率との相関は認められなかった。しかし、p53の蛋白発現様式は腫瘍細胞の分化度、局所リンパ節転移、5年累積生存率と有意に相関を示し、辺縁型p53陽性症例の予後は良好であったのに対し、散在型p53陽性症例の予後は不良であった。次にOSCC 70症例のp53遺伝子異常についての検討では,34%に遺伝子異常が認められた。さらに、p53遺伝子異常と蛋白発現との関連では辺縁型(14.3%)、混合型(50.0%)、散在型(57.1%)に遺伝子異常を認め、この検討においても辺縁型p53陽性症例の予後は良好であったのに対し、散在型p53陽性症例の予後は有意に不良であった。従って、p53遺伝子異常は口腔癌悪性度と相関する可能性が示唆された。 以上より、口腔癌患者におけるp53蛋白発現様式、遺伝子異常は腫瘍の悪性度、さらには臨床像を把握する上で重要であり、OSCCの予後因子として意義あるものと考えた。 次にOSCCにおけるRAS関連遺伝子のジェネティックおよびエピジェネティックな異常の解析としてRASシグナル経路における遺伝子の異常メチル化を解析し、OSCCにおける同経路の異常との関連を検討した。OSCC細胞株17株におけるRASSF family遺伝子の異常メチル化は、RASSF1 (41.2%)、RASSF2 (70.6%)、RASSF5 (23.5%)とRASSF2に高頻度に認めた。また、RASSF2の発現が消失している細胞株にRASSF2遺伝子を導入すると、コロニー形成の抑制を認めた。一方、OSCC臨床例の46症例では、RASSF1 (13.0%)、RASSF2 (26.1%)、RASSF5 (10.9%)に異常メチル化を認め、H-RASの変異は1症例に認めた。以上の結果から、OSCCにおいてRASシグナル経路の異常はこれまで考えられていたよりも高頻度に認められ、RASシグナル経路の異常が治療の分子標的となる可能性が示唆された。
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