Wntシグナル経路は発生と分化において重要な役割を担っており、Wnt経路の過剰な活性化は様々な癌において見られる現象である。本研究では、口腔扁平上皮癌における分泌型Frizzled関連タンパク(SFRP)遺伝子のメチル化の状態とWntシグナル経路の活性化を解析した。口腔扁平上皮癌におけるSFRP1、SFRP2、SFRP5のMSP法およびbisulfite sequence法によるメチル化頻度はそれぞれ41.2%、82.4%、76.5%(n=17)であり、口腔扁平上皮癌組織検体におけるメチル化頻度は、それぞれ25.6%、34.9%、16.3%(n=43)であった。組織検体の48.8%において少なくとも1つのSFRP遺伝子のメチル化が検出された。MSP法による解析では、SFRP遺伝子のメチル化は癌増殖部位、健常組織ともに検出される症例も存在したが、概して健常組織よりも癌増殖部位において強いメチル化が見られる傾向にあった。ウエスタンブロット分析では、多くの細胞株でβ-カテニンタンパクを発現していた。また、蛍光免疫染色では、Ca9-22細胞およびSAS細胞でβ-カテニンが核に集積していた。Wnt遺伝子の発現解析を行ったところ、全ての細胞株(17株)でWnt2B、Wnt4、Wnt7、Wnt7B遺伝子が発現していた。また、それ以外のWnt遺伝子も高頻度に発現していた。これらの細胞株において、SFRP1、SFRP2、SFRP5それぞれを過剰発現させたところ、細胞の増殖が抑制された。以上の結果から、SFRP遺伝子ファミリーの発現抑制が発癌抑制に関与しており、Wntシグナルが口腔癌治療の分子標的となる可能性が示唆された。
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