顎口腔機能複合体の成長発育は、それ自身が果たす役割、すなわち咀嚼・発音機能と複雑に関連しあいながら遺伝的要因および環境的要因とに制御されていると考えられている。この成長発育は、鼻上顎複合体および下顎骨における軟骨内骨形成および膜内骨形成によって行われるが、その中でも下顎頭軟骨における成長発育は下顎骨の成長方向や成長量を決定する成長の場の一つとして重要な役割を担っている。 本研究では、メカニカルストレスが軟骨細胞分化に与える影響を分子レベルで解明することを目的として、おもに細胞一細胞外基質問に形成される接着斑を構成するインテグリン、細胞骨格、細胞骨格関連分子、細胞内シグナル伝達分子および細胞外基質分子の果たす役割を分子生物学的に解析している。特に、インテグリンを介した細胞外基質と細胞の接着を通して、Extracellular signal-regulated kinase(ERK)への細胞内情報伝達系の活性化を検討するために、半定量RT-PCR法を用いてERK-1/2の遺伝子発現を解析し、同時に免疫染色によりERKの発現とメカニカルストレス負荷に伴うERKのリン酸化、核移行を検討した。培養軟骨細胞においてERK-1/2の遺伝子発現が認められることを発見し、メカニカルストレス負荷を行っても遺伝子発現が変化しないことを見出した。また機械的伸展刺激負荷にともない、ERKのリン酸化が起こること、さらにはリン酸化したERKが核内に移行することを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて示した。さらに、ERK-1/2の活性化阻害剤を培養系に添加することにより、分化中の軟骨細胞のメカニカルストレスレスポンスを阻害できることをII型コラーゲンの遺伝子発現の半定量的解析により解明した。これにより、ERK-1/2を介した細胞内情報伝達系が軟骨細胞の機械的刺激受容機構において細胞外からの刺激を核内に伝達している可能性が示唆された。ERK-1/2の活性化に対する特異的阻害剤であるU0126あるいはPD98059により、このシグナル伝達が阻害されることが示された。
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