顎顔面の形態的バリエーションは、胎生期から成長発育を通して形作られる。重度の骨格性異常は顎変形症として形態学的あるいは機能的に診断され、顎矯正外科治療の対象となるが、多くの場合、顎変形抄の診断の主体は成長が終了した個体の表現型についての形態診断であり、顎変形症の原因や発症メカニズムには関心が払われていないのが現状である。下顎の器官形成期において、FGF、BMP、TGFbetaあるいはEGF等が下顎骨の内側に発現し、下顎の形成に重要な働きをすると考えられている。これらの分子は種々の分子生物学的関連を持ちながら、顎顔面骨格を構成する骨の大きさや形態に影響を与えていると考えられるが、特にFibroblast growth factor 10(FGF10)はFGF8とともに顎骨や歯の形態形成に重要な役割を果たしていると考えられる。 本研究では、FGF10の下顎器官形成における表現型への関与と、そのメカニズムを解明することを目的として、下顎骨の内側に発生し、そのテンプレートとなるメッケル氏軟骨の形成に果たすFGF10の役割を分子生物学的・組織学的に解析した。 FGF10遺伝子導入により、メッケル氏軟骨の三次元構造が変化し、伸長されることがわかった。さらに、半定量的RT-PCRにより、軟骨細胞特異的遺伝子であるSox9の遺伝子発現量の変化を解析し、同時にWhole mount in situ hybridization法によりSox9遺伝子の発現パターンの変化についても検討を行った。また、培養軟骨細胞において、ヒトリコンビナントFGF10タンパク添加により軟骨分化の促進が認められた。 これらの結果より、器官形成期の下顎隆起において、FGF10はメッケル氏軟骨の大きさや形態を制御している可能性が示唆された。
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