研究概要 |
う蝕病原性細菌Streptococcus mutansの表層には様々なタンパクが存在している。なかでもグルカン合成酵素、高分子タンパク抗原、およびグルカン結合タンパク(Gbp)が主要な病原因子として報告されている。S.mutansには4種のGbp:GbpA,GbpB,GbpC,GbpDが存在し、この中で特にGbpBの生物学的特性については明らかとなってはいなかった。この研究では、すでに報告されているS.mutansのGbpB遺伝子の配列をもとにGbpB欠失変異株とリコンビナントGbpBタンパクを作製し、これらを使用することにより、GbpBの生物学的機能を検討した。GbpB欠失変異株は親株であるS.mutans MT8148株と比較して、増殖速度は遅延し、レンサの形成が長くなっていた。また、S.mutansの主要な病原因子である耐酸性もGbpB欠失変異株では低下していた。さらに電子顕微鏡により、GbpB欠失株の表層を観察したところ、ペプチドグリカン層が不明瞭になっていた。これらのことより、GbpBは細胞の分裂に関与している細胞壁の構成成分である可能性が高いことが示唆された。 さらに小児口腔内よりS.mutansを100株分離し、グルカン結合タンパクBの発現を調べたところ、菌体結合型と菌体遊離型が存在することがわかった。また菌体結合型においても、2種類に分類でき、変異した状態の株が高い頻度で認められた。これらの株を用いて、スクロース依存性平滑面付着、バイオフィルム形成能、レンサ形成能、および、増殖曲線を調べたところ、菌体遊離型は菌体結合型と比較して有意にう蝕原性能は低く、レンサの形成も長くなっていた。これらの結果は、グルカン結合タンパクを状態を調べることにより、小児のう蝕活動性の指標となることがわかった。
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