う蝕の主要な病原細菌であるStreptococcus mutansの菌体表層にはグルカン合成酵素(Glucosyltransferase: GTF)、高分子タンパク抗原(PAc)、およびグルカン結合タンパク(Glucan-bindingprotein: Gbp)が存在している。GbpにはこれまでのところGbpA、GbpB、GbpC、およびGbpDの4種類が報告されている。これまでにGbpAおよびGbpCの機能についてはスクロース依存性平滑面付着能に関与し、う蝕発生の病原因子であることが明らかとなっているが、GbpBの機能については、明らかとなっていなかったため、本研究ではその機能について検討することとした。まず、分子生物学的手法を用いて、各Gbpの発現を欠失させた株を作製し、その生物学的性状を親株と比較した。その結果、菌の増殖作用においては、他の菌株と比較して、GbpB欠失変異株では増殖速度は明らかに低下していた。またS.mutansのう蝕発生における最も重要な因子の一つである耐酸性についても、GbpB欠失変異株では明らかに低下していた。しかしながら、スクロース依存性平滑面付着能においてはGbpAおよびGbpC欠失変異株では低下が認められたものの、親株と比較してGbpB欠失変異株においてはほとんど変化が認められなかった。そこで菌の増殖に関与するレンサの長さについて調べたところ、他の菌株と比較して明らかに長くなっており、さらに電子顕微鏡により、菌の表層構造を調べたところ、他の菌と比較して、GbpB欠失変異株では表層構造がかなり不明瞭となっていた。以上のことより、GbpBが細胞壁を構成する成分の一つであり、菌の増殖および分裂に関与していることが明らかとなり、う蝕の発生機序におけるGbpBの機能を明確にすることができた。
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