研究概要 |
成長発育期の骨格性上顎前突症患者に対して機能的矯正装置を用いると、下顎骨の成長が促進する。機能的矯正装置は上下歯列を固定源とするので歯性の変化を生じるが、その歯性変化の抑制が下顎骨の成長促進効果に及ぼす影響については報告されていない。本研究では従来の方法と下顎切歯の唇側傾斜を抑制しながら下顎前方誘導を行ったときの顎発育の制御効果を比較した。4週齢雄性ラット15匹を用い、下顎両側第一、第二大臼歯間の頬側歯槽骨から舌側歯槽骨まで骨穿孔を行った。実験群5匹では両側の骨穿孔部と下顎切歯を結紮線で結紮し、対照群5匹とコントロール群5匹では骨穿孔部に結紮線をそれぞれ通して結紮のみ行った。実験群と対照群では上顎歯列に下顎骨を前方誘導するジャンピングアプライアンス(JA)を装着した。装置装着直前(T0)、装着後1(T1),2(T2),3(T3),4週後(T4)にX線規格撮影を行い、下顎骨長、下顎枝高、下顎骨体長と下顎切歯歯軸の変化を経時的に解析し、群間で比較した。実験群と対照群における下顎骨の成長のスパートは、実験群がT0-T1とT2-T3で、対照群がT0-T1で、コントロール群がT2-T3であった。また、下顎骨長と下顎枝高の成長量は、T0-T1において実験群と対照群がコントロール群に比べて有意に大きく、T2-T3において実験群とコントロール群が対照群に比べて有意に大きかった。下顎切歯は、対照群ではT0からT4にかけて唇側傾斜したが、他の2群では変化しなかった。下顎骨を前方誘導すると関節頭に張力が加わり、下顎骨の成長が促進する。対照群では、下顎切歯の唇側傾斜によって下顎骨の前方誘導量が減少したため、T2-T3における下顎骨の成長量が小さくなったと考えられた。下顎切歯の唇側傾斜を抑制しながら下顎骨を前方誘導する治療は、従来の治療法よりも大きく下顎骨の成長を促進できることが示唆された。
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