【目的】矯正治療の後戻りの局所的原因のひとつとして、コラーゲン、エラスチンなどの線維が矯正力に抵抗するために増生し、これらが元の位置を記憶していることで後戻りが生じるとし、歯根膜線維のリモデリングが関与していると報告されている。一方、relaxinは、コラゲナーゼの放出によってコラーゲンを破壊する作用を持つホルモンであり、ビーグル犬の歯肉にrelaxinを注入した結果、矯正力に対する後戻りの減少が見られたと報告されている。しかし、ヒト歯根膜へのrelaxinの影響については不明な点が多い。そこで、矯正治療の後戻り防止策の一環として、ヒト歯根膜におけるrelaxinの作用に関する研究を計画し、本実験では、in vitroにおけるヒト歯根膜細胞のrelaxin receptorであるLGR7、LGR8の発現の有無について検討を行った。【方法】培養したヒト歯根膜由来線維芽細胞(hPDL cells)からRNAを抽出し、RT-PCR法にてLGR7、LGR8の遺伝子発現を、また、免疫細胞化学染色にてタンパク発現の有無を検討した。【結果】hPDL cellsにおいて、遺伝子、タンパク発現レベルでLGR7、LGR8が認められた。【考察】ラットを用いた動物実験において、relaxinが歯根膜の機械的な緊張を減少させたと報告されていることから、ヒト歯根膜においてもrelaxinを作用させた場合、relaxin receptorであるLGR7、LGR8を介して歯根膜のコラーゲン代謝に影響を及ぼす可能性が示唆された。【結論】hPDL cellsにLGR7、LGR8の存在が確認されたことから、歯根膜のコラーゲン代謝にrelaxinが関与していることが示唆された。
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