(1)歯胚消失時期の決定について 7週齢のEL/kw(コントロールマウス)とEL/sea(ミュータントマウス)をそれぞれに交配し、F1を作製し実験に供した。m3歯胚の発育状態を病理組織学的に観察するためにパラフィン包埋後、HE染色を行った。EL/seaのm3は生後5日目まではEL/kwに比べて発育は遅いものの正常に発育していた。生後7日目には歯胚の形態異常がみられ歯胚の発育停止(arrest)が生じていると思われた。10日目になると歯胚はほぼ消失していた。 (2)免疫染色 生後5日、7日および10日齢のEL/kwとEL/seaの顎骨を摘出した。4%パラホルムアルデヒドで固定後、脱灰し、m1、m2、m3の歯胚を通るように咬合面から根尖方向に向け、矢状断に切断し組織切片を作成した。Lef1抗体、EGF抗体での免疫組織染色を行い、第三臼歯周囲における各抗体の発現を確認した。 Lef1抗体を用いた免疫染色では、EL/kwにおいては生後5日、7日、10日齢のいずれの個体でもm3の歯胚とその周囲の細胞で発現が認められた。一方、EL/seaにおいては5日、7日、10日齢ではm3の歯胚とその周囲の細胞で発現が異なっていた。5日齢では発現が弱く、7日齢になると強い発現が見られ、10日齢では発現が減弱していた。EGF抗体を用いた免疫染色ではEL/kwならびにEL/seaにおいても生後5日、7日、10日齢のいずれの個体でも抗体特異的な発現が観察されなかった 今回の結果から、組織切片を用いた経時的観察より、EL(sea)にみられるm3の欠如は歯胚の形成は開始するものの、10日齢までにアポトーシスによってほぼ消失することがわかった。さらに、歯胚の発育に重要であることが報告されているLef1、EGFを用いた免疫染色から、Lef1遺伝子は歯胚の消失過程に重要な役割を演じている可能性が示唆された。
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