本研究ではこれまで、細胞移植に基づく新たな歯周再生療法の開発を目指して、3次元多層性ヒト歯肉線維芽細胞シート移植材の有効性を動物実験で検討・確認してきた。この移植材の有効性をさらに高めるために、3次元多層化増殖機構を解明して細胞高密度型移植材を開発する必要がある。近年、細胞増殖の調節因子としてメカニカルフォースが注目されている。細胞内でのROCKの活性化は細胞骨格系の収縮によるメカニカルフォースの発生を誘発し、vinculinやpaxillin等で構成されるfocal adhesionの形成を促して、細胞付着を強化することが知られている。そこで今回、ROCK阻害剤(Y-27632)によるメカニカルフォースの抑制が細胞密度依存性に増殖停止した細胞のfocal adhesion assemblyとDNA合成に及ぼす効果について解析した。コンフルエントなヒト歯肉線維芽細胞の細胞周期S期への移行をBrdUの取込み実験で調べた結果、血清のみの培地ではS期の細胞はほとんど認められず、一方、多層化培地ではS期の細胞の割合が増加した。このS期の細胞の増加はROCK阻害剤の添加によって抑制された。vinculinとpaxillinを蛍光免疫法で検出し、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果、これらの分子は血清のみの培地では細胞周縁部にのみ観察されたが、多層化培地ではさらに基質付着面のfocal adhesionにも検出され、このfocal adhesionの形成はROCK阻害剤の添加によって抑制された。focal adhesionの形成はS期への移行に先行した。以上の結果から、メカニカルフォースの発生が多層化増殖を促進することが示された。細胞高密度型細胞シート移植材を作製するためには、focal adhesion assemblyによる細胞付着の強化をサポートするスキャホルドが必要になることが示唆された。
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