研究概要 |
本研究の目的は, 1)要介護高齢者における口腔細菌に対する免疫能,栄養状態,気道感染症との関連性を明らかにし, 2)さらに口腔ケアがそれらに影響を及ぼすか否かを明らかにすることである. 精神障害(統合失調症)患者は,歯みがきなどのセルフケアの低下による口腔環境の劣悪性が指摘されており,口腔保健の支援が必要とされている.そこで,札幌市内H病院に入院中の統合失調症患者20名について精神症状,免疫能,栄養状態,口腔環境を調査し,口腔ケア介入によりそれらがどのような影響を受けるか検討した. 【方法】 1)まず,全例において精神症状を陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)で,生活障害を精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)で評価した.また,口腔清掃状態,口腔乾燥度,口臭などの口腔内評価を行った.さらに,末梢血を用いて,免疫能としてNK活性,栄養状態として血清アルブミン値を測定した. 2)ランダムに口腔ケア施行群10名と対照群10名に分け,以下のような介入研究を行った. 口腔ケア施行群については,月1回の専門的口腔ケアに加え,毎日患者自身による口腔ケアを行った. 対照群については従来行われていたケアのみを行った. 3)3ヶ月間の口腔ケア介入後に,1)について再評価した. 【結果】精神症状,免疫能(NK活性),栄養状態(血清アルブミン値)については口腔ケア施行群と対照群との間に有意差はみられなかった.口腔環境については,対照群に比べて口腔ケア施行群でハリメーターによる口臭平均値が有意に減少した(p<0.05,Mann-Whitney U test). 【考察】統合失調症患者に対する3ヶ月間の口腔ケア介入は精神症状,免疫能,栄養状態にほとんど影響を与えなかったが,口臭の有意な改善が認められた.このことは,統合失調症患者の積極的な社会活動参加に向け,口腔ケアがプラスに作用する可能性があることを示唆している.
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