研究概要 |
本研究の目的は,ひ素ミルク中毒患者の歯科疾患(特に歯周疾患)に焦点を絞り,広島地区の被害者を対象に,ひ素ミルク中毒発生50年後の患者の障害(身体、知的、精神)程度により,それぞれの歯科保健・医療ニーズの実態を明らかにし,18年前(昭和62年)に実施した歯科アンケート調査結果と比較することによって,必要かつ効果的な歯科保健対策を策定することであった。そのため,本年度は以下のことを実施した。 1.「口腔保健行動・自覚症状・受診意欲・歯科保健ニーズ」調査の経緯 平成19年1月に「口腔保健行動・自覚症状・受診意欲・歯科保健ニーズ」調査票を作成し,調査項目に倫理上の問題等がないかどうか18年前に共同調査を実施した砒素ミルク中毒被害者救済事業を行っている「ひかり協会」と検討した。その後,広島県内に居住する被害患者を対象に同調査票を郵送した。第1回目の集計で,360名(回収率約40%)から回答を得た。5月にアンケート回収率を高めるため,再度,協力を依頼した結果,回収率が過半数を超えた(約55%)。10月に「ひかり協会」から,無記名(ただし昭和62年と対)データを受け取り,分析中である。 2.昭和62年および平成19年調査ともに回答した対象者(対データ)の口腔保健行動の変化 「歯の治療は痛くなってから行く」との回答が20年前の80%から66%に減少し,「一本一本の歯に注意して"歯みがき"をしている」ものは36%から47%に推移するなど,概して口腔保健行動は好ましい方向に推移していた。 3.患者の口腔保健行動に関するプリシード・プロシード(PP)モデルと現状とのギャップ PPモデルで患者の保健行動が説明できるかどうか検討した。その結果,保健行動に関してPPモデルでは説明できない独自の因果モデルが存在する可能性が否定できず,検討が必要である。
|