本年度は、倫理教育に携わる医療専門職の教育者へのインタビューと、文献検索を行い、医療従事者の基礎教育における倫理教育の現状と課題を明らかにした。医学中央雑誌において、1983年から2007年までに、"倫理"と"教育"をキーワーズに1322件の文献が検索されるが、その多くは看護、医学教育に関する文献であった。この5年間(2003〜2007年)は、コメディカルスタッフに対する大学教育の充実とともに、医学、看護学によらず、様々な専門職種の基礎教育における倫理教育の必要性も示唆され、倫理教育の必要性は拡大している。しかし、現状では、それぞれの専門職への倫理教育の在り方に言及する文献は見られるが、医療専門職者に共通して教育すべき倫理の必要性や、その中心となる概念は、職業倫理として解説されていることに留まっている。 倫理教育に関する研究は、倫理教育の対象となる学生の"倫理的感受性"、"教育へのニーズ""実習における倫理的問題の認識"等についての意識調査が多く、横断的調査、医療倫理に関する認識の変化についての縦断的調査が、各教育課程で行われていた。医学生と看護学生の両者に関して同様の調査を行い、その比較を行ったものは、少数であった。この結果は、医学生と看護学生の問題の見方が異なることを考慮して、教育をすべきであるという見解を得たが、共通に教育することによる効果は明らかになっていない。医学、看護学教育においては、教育方法の効果について研究されており、ワークショップ、カンファレンス、ロールプレイ、PBLなど知識を応用し、倫理的判断を可能とするために、具体的な事例を検討させることが効果的とされている。 臨床の医療従事者達は、いずれも倫理教育の充実を望んでおり、倫理教育の必要性は共通して増大している。今後のチーム医療の向上のため、倫理教育に共通する概念を明らかにするとともに、その効果を探る必要性がある。
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