なぜ踵部後面は褥瘡を発生しやすく、発生すると治りにくいと言われているのかを明らかにするために、踵部後面の皮膚の形態をもう一つの好発部位である仙頭部と、また非好発部位の大殿筋中央部と比較した。本研究に着手する前提として、研究代表者と分担者が所属する両大学で本研究の研究倫理審査を受け、承認された。本年度は献体遺体より1例の試料が得られたのでそれを分析した。 踵部後面の皮膚は表皮角質層が仙骨部や大殿筋中央部に比べて厚く、また、真皮乳頭も大きかった。真皮乳頭の分布は密で、二次乳頭も存在していた。 したがって、真皮乳頭下の毛細血管の分布も密で、仙骨部とよく似ていたが、血管内径が大きく、通常の約3倍であった。真皮乳頭が密で、大きいということは、表皮と真皮の接合部の表面積が広く、多くの酸素や栄養物の供給が可能になり、この部位では代謝が盛んであることが推測される。更に、この部位での毛細血管の分布も密で内径が大きいこともこれに関連し、高い代謝維持に寄与していると思われる。 真皮網状層コラーゲン線維の直径は大きく、配列が仙骨部や大殿筋中央部では縦・横のメッシュ状になっているのに対し、踵部後面では縦・横・斜めと様々な方向に配列しているのが見られた。コラーゲン線維は外からの力を分散し、深部の組織(例:筋肉)を保護する役割があり、より強い力にタイしてそれを分散していくために様々な方向へ配列しているのかもしれない。 踵部後面での皮下脂肪組織は厚いコラーゲン線維の隔壁に囲まれ、一つ一つの組織が小さく、表面に対して垂直方向に縦長に配列しているのが観察された。仙骨部や大殿筋中央部ではこのように厚いコラーゲン線維の隔壁は見られないし、配列も横長で、表面に対してどちらかと言うと水平方向であった。これも強い力が加わった時に脂肪組織の損傷を防ぐためであると思われる。
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