なぜ踵部後面は褥瘡が発生しやすく、発生すると治りにくいと言われているのかを明らかにするために、褥瘡好発部位である踵部後面と仙骨部、非好発部位である大殿筋中央部と踵部下面の4箇所の皮膚を、献体された4遺体より採取し形態学的に比較した。 皮膚の形態は、個体間で大きな差はなく、むしろ調査した4つの部位によって異なっていた。表皮、特に角質層の厚さは、踵部下面がもっとも厚く、次いで踵部後面、仙骨部の順で、大殿筋中央部は最も薄かった。 表皮を栄養している毛細血管は、真皮乳頭内に分布している。真皮乳頭は、踵部後面と仙骨部においてその分布が密であり、大殿筋中央部ではほとんど無いか、その横径が小さかった。特に踵部後面の乳頭は横径が大きく、豊富な毛細血管を含み、その内径は通常の3倍であった。このことは、極めて物質代謝が盛んであることを意味している。 膠原線維から成る真皮は、仙骨部で最も厚く、次いで、踵部後面と踵部下面、大殿筋中央部で最も薄かった。膠原線維の配列は、仙骨部や大殿筋中央部では縦・横の2次元的であるのに対して、踵部後面と踵部下面では、縦・横・斜めの3次元的であった。また、真皮の弾性線維は大殿筋中央部と踵部後面で豊冨であるが、仙骨部では比較的疎であった。このことから、踵部後面の皮膚は仙骨部よりも弾性があることが伺える。 皮下の脂肪組織は、種部後面と大殿筋中央部では厚いが、仙骨部では極めて薄かった。特に興味ある形態所見は、脂肪組織を包む隔壁(膠原線維)は仙骨部で最も薄く、踵部後面、踵部下面で厚かった。脂肪組織はクッションとしての役目を持ち、隔壁は圧迫による脂肪組織の破壊を防いでいることが考えられる。しかし、過度の圧迫によってひとたび隔壁が破壊された場合には、クッションとしての機能は失われ、圧迫によるダメージが大きくなることが示唆される。
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