本研究は、育児中の母親の育児支援に貢献するための基礎研究として、開発中の育児困難感尺度の実用化を図ることを目的としている。この尺度は、特に児の泣きに対していだく母親の困難な情動に着目して開発したものであり、健常新生児の1ヶ月時における泣きに対する母親の育児困難感を測定する尺度として概ね高い信頼性と妥当性を得ている。本年度は、最終年度として、NICUを退院したハイリスク児の母親を対象とした調査の分析を加え、健常児をもつ母親とハイリスク児をもつ母親の児の泣きに対する情動反応の差異について明らかにした。 全国の274NICUのうち、承諾を得た61施設に入院し、退院となった児の母親を対象に、NICU退院後1ヶ月と1年時の2回、質問紙調査を実施した。調査内容は基本的属性の他、児が泣いた時の気持ちについて“かわいい"、“抱きしめたい"、“イライラ"、“泣きたい"などの情動10項目について、4段階リカート尺度により得点化した。調査用紙は606部配布し、2時期ともに回答のあった98名のうち、入院期間が2週間以上の62名を分析対象とした。児が泣いた時の情動得点は、退院後1ヶ月時29.4点に比べ、1年時は27.8点と有意に低く(p<0.001)、受容的な情動が時間の経過とともに低下していることが明らかとなった。また、“イライラ"や“わずらわしい"情動が退院後1ヶ月時よりも1年時で高くなっており、これらの傾向は、健常新生児をもつ母親の情動傾向と同様であり、子どもをもつ母親に共通した情動傾向と考えられた(2009年3月21日、日本助産学会学術集会(東京)にて成果発表)。
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