筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、発症から3〜5年で死に至る病である。しかし、1980年代後半から呼吸器の普及と進歩が、ALS患者に延命効果をもたらした反面、患者と介護者は呼吸器の意思決定を迫られることになった。装着しなければ患者の死は直前に迫り、選択すれば介護者が患者の萎えていく一部始終を長期的に目撃する。そのためいずれの選択も、介護者に深い罪悪感をもたらす。ALS患者との死別後、家族介護者がこうした心理的問題を長期的に抱える傾向にあり、申請者は、家族介護者への良質なケアシステムの組織化と提供が急務であると考えた。そこで、平成18年度は、遺族支援プログラムを検討するためにbereavement care、grief careに関する先行研究の整理および概念分析を行った。また、米国におけるALS患者と家族へのケアについて情報を得るために、2006年8月に行われたALS Nursing Conference、同年10月に行われたManagement of ALS : A Multidisciplinary Approachに参加した。前者では、現場の看護師がほとんどで、終末期の早い段階でモルヒネをタイミングよく用いる必要性も質疑された。後者は、集学的アプローチに参画する看護師、医師、言語療法士、栄養士、理学療法士、呼吸器セラピストなどが多数参加した。Albertは、終末期ALS患者には重度のうつ症状が10〜20%みられ、終末期のQOLを維持する上で、患者と介護者のメンタルヘルス、早期のホスピス利用、死の最終月により良い症状管理が求められていると述べた。うつと生きる意味の喪失は区別しなければならないことも報告された。以上より、患者の症状管理がうまくいけば、死別体験がもたらす遺族の心理的衝撃も緩和される可能性があると推測された。上記の知見は、日本難病看護学会へ報告する予定である。
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